京都リサーチパーク
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京都リサーチパーク(KRP、京都市下京区)
大阪ガス株式会社の京都工場跡地を活用し、1989年に全国初の民間運営による都市型リサーチパークとして開設。5万9,000平方メートルの敷地内に18棟のビルが建つ一大ビジネス拠点で、現在は510の企業・団体が集積、6,000人が働いている。イノベーションの創発に向けたイベントも活発に行われており、2024年度は266件を実施。1万4,460人が参加した。カフェやレストラン、書店などの店舗もそろっており、地域事業者と連携しながら街づくり活動を進めている。
イノベーションのエコシステムで京都発の新ビジネス・新産業を創出
京都リサーチパークは、大阪ガスグループが運営する産業集積施設だ。世界中の研究者や起業家、新規事業の開発者、学生らの交流を促すことによってイノベーションエコシステムを形成しており、京都発の新ビジネス・新産業の創出を目指している。
京都にあるレンタルラボの7割がKRPに集中している
KRPではイノベーションの担い手であるスタートアップの成長を支えるため、さまざまな施策を講じている。その一つがオフィスの提供だ。創業したての起業家を対象とした個人利用が可能なシェアオフィス「KRP BIZ NEXT」から、3,000平方メートルを超える物件まで340区画以上を用意しており、事業規模や従業員数に応じた選択が可能である。
レンタルラボ(実験室)も充実している。1区画あたり約30~1,000平方メートル超で120区画を用意しており、バイオや電気、ケミカル系の高レベルな実験・研究への対応が可能だ。一般的な研究開発拠点は都市部から離れているため、都市型ラボに対する人気は高い。京都リサーチパーク株式会社の調べによると、京都にあるレンタルラボの7割がKRPに集中している。
入居企業や研究者間のネットワーキングを促進
入居企業や研究者間のネットワーキングの促進にも力を入れており、新たな共同研究やビジネスの機会の創出を目的としている。また、今春より KRP地区内のイベントスペース「たまり場」にコミュニティマネージャーが常駐。ソーシャル系スタートアップと連携した取り組みであり、日々の会話の中から入居者の願いや悩みを聞き出し、地区内に集う様々な会社・部門の垣根を越えた橋渡しを行っている。
アドバイザーとのディスカッションや発表までをすべて英語で行うプログラム

海外展開を目指す医療・ヘルスケア領域のスタートアップと、大企業やベンチャーキャピタル(VC)をつなぐイノベーション創出プラットフォームが「HVC KYOTO」である。早期のグローバル展開や海外企業との連携を視野に、「デモデイの発表だけではなくアドバイザーとのディスカッションに至るまですべて英語で行っている」(イノベーションデザイン部の長田和良氏)点が特徴だ。HVC KYOTOは今年10年目を迎え、今年の採択者も含め、創業期を含む194件のスタートアップを支援対象として採択し、採択後の資金調達額は2025年3月時点で765億円に達している。資金調達やマッチングの数が豊富な点や国際的な連携体制が評価され、2025年2月に日本オープンイノベーション大賞の「経済産業大臣賞」を受賞している。
海外サイエンスパークとのネットワーク構築も推進
海外のサイエンスパークとのネットワーク構築にも力を入れており、国際交流や海外進出の支援、施設の相互利用を進めている。7月には欧州最大級のサイエンスパーク「マラガ・テックパーク」(スペイン)と連携協定を締結し、連携先は6カ国7拠点となった。世界には約1,000カ所のサイエンスパークがあると言われているが、大半は国や大学が運営しており、KRPのような民間主導型はわずか。サイエンスパークの国際連盟によるKRPの評価は高く、ネットワーク構築の後押しとなっているようだ。
有力な海外VCを招き、オール京都でマッチングを促す
今後の重点課題の一つが、HVC KYOTOに参画した起業家の支援体制の強化である。海外とのネットワークを生かして有力な海外VCを招き、主催機関であるジェトロ・京都府・京都市とともに、オール京都でスタートアップとのマッチングを促す考えだ。また、27年には貸床面積が2,700平方メートルのレンタルラボを同施設内に新設し、スタートアップの支援体制を拡充する。
株式会社マリはHVC KYOTOなどのイベントを通じて海外VCとの関係性が強化され、米国を視野に入れた事業を加速している。
非接触タイプのSAS診断・治療機器で世界に飛躍
株式会社マリ
睡眠時無呼吸症候群(SAS)を患った方が、意識レベルが低下したまま車の運転を続け、重大な交通事故につながるケースが顕在化している。高齢者の2~3割がSAS患者と言われており、市民の安全性を高める上でもSASの効果的な治療法は喫緊の課題だ。マリが提供しているのは患者の負担が小さい非接触タイプでSASを診断・治療できる機器。KRPに入居したことで地の利などを生かした高度な開発体制を構築している。
瀧 宏文(たき・ひろふみ)
株式会社マリ代表取締役CEO。1975年大阪生まれ。京都大学医学部医学科卒。2017年11月にマリを設立。

SASは自覚症状がなく、本人は困っていない病気
マリの瀧宏文・代表取締役CEOがSASに関心を抱いたのは8年前。起業を視野に入れ米スタンフォード大学に留学していた時、睡眠関連のクリニックを訪れた年配の婦人と医師の会話がきっかけだ。その女性は「主人に“いびきがうるさいから、一度病院に行ってみたら”と言われて来院しました」と話され、それを聞いた医師は、「うちに来られる方の多くが同じ理由なんです」と答えられていた。多くの病気は「痛い、苦しい」といった自覚症状があるのに対して、SASの場合、本人は困っていない。当時、日本ではSASに対する認知度が低く、本人に自覚がないという事実を知って衝撃を受けた。
SAS対策として一般的に適用されているのは持続陽圧呼吸療法(CPAP、シーパップ)。専用マスクを着けてもらい、空気を送り込むことで睡眠時の呼吸を可能にするという効果的な治療法だ。しかしながら、マスクの装着は大きな負担となり、1年以内に3分の1の人が治療を断念している。負担をかけないセカンドチョイスの治療法を提供したい。そんな思いで事業化に取り組んでいるのが非接触タイプの機器だ。
京都大学との連携を進めやすいという地の利を生かすために入居

機器の開発には瀧氏が卒業した京都大学の医学部および同工学部の研究拠点との連携が必要になってくる。KRPは両者のほぼ中間地点にあり、京都駅にも比較的近く東京にも出張しやすい。立地条件を踏まえKRPを本社拠点とすることに迷いはなかった。 スタートした後、会社の規模に応じて大きな部屋に移り、現在は2カ所を借りて通常のオフィスと実験拠点として活用している。実験は通常、離れた場所で行われるが、エレベーターの上下移動で済むため研究スピードは早い。また、KRPに本社を構えることは信頼感につながり、優秀な社員の採用にもつながっている。現在の社員数は13人だ。
米国ではスリーマイル島原発事故が引き金となってSASの治療が進む

SASの治療が最も進んでいるのは米国である。その原因は1979年のスリーマイル島原発事故。SASを患っていた監視員が意識をなくし、大事故につながった。その経験を踏まえ、SASと診断されて対策を行っていないと、保険料が5割増しになるという厳しい措置が講じられているからだ。
米国ではCPAPのほかに、圧力センサーを体内に埋め込み無呼吸になったら電流で舌を動かすという治療も行われている。ただ、効果がない時には再手術を強いられるなど負担は大きい。このため、非接触タイプに対する潜在需要は大きく、マリは米国を主要市場と位置づける。同社の機器ではミリ波レーダを活用して対象者の胸の動きをモニタリングし無呼吸状態を判断する。また、低周波音により目が覚めない程度の刺激を与えることで正常な呼吸を促して無呼吸状態を改善することも可能である。
HVC KYOTOへの登壇をきっかけに知名度が高まりマッチングも進む
米国を視野に入れた事業を加速する上で重要な役割を果たしたのがHVC KYOTOだ。デモデイでのピッチコンテストなどを通じ英語によって自社をアピールした結果、医療系スタートアップに関心を抱く海外VCなどの間で知名度も高まり、資金調達に向けたマッチングも進んだ。
AIアルゴリズムとの組み合わせで未病段階の疾病対策も進める
SASはこれまで、自覚症状が乏しいこともあって日本ではなかなか治療が進まなかった。ただ、治療を怠ればさまざまな生活習慣病の発症率が上昇するため、超高齢化社会の進展に伴い進むとみられる。その中でも体への負担が小さい非接触型機器に対するニーズは高まる見通しだ。
マリは京都大学の提携を踏まえミリ波レーダを開発しているため、数多くの高精度な情報を取得できる。AIによるアルゴリズムと組み合わせれば「こういった症状が出ると、このような疾患につながっていく」と推測できることから、未病段階の疾病対策も可能だ。京都大学とは呼吸内科だけではなくさまざまな診療科とも共同研究を行い、非接触タイプ以外の機器の開発も目指す。また、海外での本格展開を見据え外国人のデータ取得も積極的に進める考えだ。KRPのエコシステムを支える入居者間の交流と海外ネットワークは、マリの新たな成長戦略にとっても不可欠な要素である。