Nakanoshima Qross
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Nakanoshima Qross(中之島クロス、大阪市北区)

2024年6月に開業し、民間企業や大阪府で設立した一般財団法人 未来医療推進機構(理事長・澤芳樹氏)が核となって運営している。医療機関と企業、スタートアップ、支援機関などが一つ屋根の下に集積する未来医療の産業化拠点で、16階建ての施設は未来医療MEDセンター、未来医療R&Dセンター、中之島国際フォーラムという3つのエリアで構成。それぞれ未来医療の実践、創造、共有の役割を担う 。京都大学iPS細胞研究財団が運営するiPS細胞製造施設も入居している。
グローバル市場で日本発ライフサイエンスの存在感を高める
「Nakanoshima Qross」は創薬やヘルスケアなどライフサイエンス分野の産業化拠点である。循環器科や眼科などの医療機関のほか、製薬会社や医療機器メーカーなどがオフィスを構えるほか、レンタルラボ&オフィスには国内外のスタートアップが入居する。交流の促進によるエコシステムの発展を重点課題として掲げており、海外で活躍するスタートアップの輩出を目指す。
産学官でイコールパートナーを目指した

Nakanoshima Qrossは、かつて大阪大学医学部の中之島キャンパスがあったエリアで、在阪の大企業や自治体、大学などが連携しながらヘルスケアの象徴的な拠点を目指し、再開発を進めていった。
ヘルスケア産業を支える上で重要な役割を果たす最先端技術の開発は、大阪大学をはじめ京阪神のさまざまな国公立・私立大学との連携によって成り立つ。一方、実用化の段階では大企業の力が不可欠となる。こうしたそれぞれの特性を踏まえ、運営を担当する未来医療推進機構の吉田美里エキスパートサポーターは「イコールパートナーになることを徹底させた」と話す。大学側と産業界がお互いに敬意を払いながら、それぞれの知見やノウハウを吸収していった。こうした姿勢は強固なエコシステムを構築するための原動力となっている。
コミュニティを可視化しオープンイノベーションを進めやすくする
2024年の6月に開業後、特に力を入れているのが、ピッチイベントやワークショップなどを通じたコミュニティの活性化である。それぞれの事業領域で起業家とVCのつながりや、プレーヤー同士でどういった共感力があるのかについて可視化し、オープンイノベーションを進めやすくするのが目的だ。例えば医療機器領域の場合、「スタートアップはA社で、支援施策を担当できるのはB社、VCはC社」といった形で関係性をあぶり出し、足りない部分を埋めていく。
海外のエコシステムとのネットワーク化も推進
また、米国をはじめとして「海外のライフサイエンスエコシステムとのネットワーク構築に力を入れている」(未来医療推進機構事業推進本部スタートアップ支援部の村尾崇実マネージャー)点も特徴だ。ヘルスケア領域のゲームメーカーは北米市場であるため緊密な関係を構築する一方で、今後は高齢化社会に対応するため培ってきたシーズ・ソリューションを武器に、東南アジアをはじめ中東やアフリカ、オセアニアなど成長地域での市場開拓に力を入れていく。吉田氏は「関西の大学は成長地域との連携が活発で、その経験をもとにビジネス展開へとつなげていきたい」と話す。
2026年にはイノベーションキャンパスが誕生
海外戦略を強化するため2026年春には、会議室やコワーキングスペースのほかオフィスなどで構成された拠点を開設する。日本生命保険相互会社と米国のスタートアップ支援機関、ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)による共同事業で、ライフサイエンス分野にかかわるスタートアップ、研究機関、自治体、投資家、企業が集い交流できるイノベーションキャンパスを創出する。
2031年には大阪駅から中之島を通り関西国際空港に直結する新線「なにわ筋線」が開業するため、海外へのアクセスは大幅に向上する。国際拠点としての存在感は一段と高まりそうだ。
Nakanoshima Qrossに入居する医療機関や企業と連携しながら、ヘルスケアを基軸としたビジネスの創出をめざしているのがPITTAN(ピッタン)だ。
体内ケアを起点として予防医療の進展につながる事業を創出
株式会社PITTAN
日本は世界の中でも先駆けて高齢化社会に突入しており社会保障の負担増加が避けられない。健康的に生活できる期間を指す健康寿命を延ばし、不健康な期間との差を縮めることが喫緊の課題となっており、それを実現する手段として予防治療に注目が集まっている。PITTANが提供するのは微量な汗から肌や筋肉の栄養状態を可視化するサービス。Nakanoshima Qrossに本社を構えるという地の利を最大限に生かし、さまざまな業種の企業や医療機関などと連携することで、体内ケアを起点として予防医療の進展につながる事業の創出を目指す。
辻本 和也(つじもと・かずや)
株式会社PITTAN代表取締役CEO。京都大学でMEMS(微小電気機械システム)分野を研究し、修士・博士課程を修了。東京エレクトロンやコンサルファームなどを経て、2022年にPITTANを設立。

18センチ四方の小型マシンが10分で身体内部の状態を可視化
PITTANがこのほど開発したのが、18センチ四方という小型で立方体形の分析マシン「Pitagoras(ピタゴラス)」だ。皮膚にパッチを貼って3分間でごく微量の汗を採取し、ピタゴラスにパッチを装着。従来の検査方法では難しかった身体内部の状態を、わずか10分で可視化する。阪急百貨店うめだ本店や有楽町ルミネ店のコスメキッチンでも利用いただいている。
ピタゴラスの肌モードでは、「現在の体内の状態だったら、肌がこういった傾向になりやすい」といった注意喚起をスコアで示す。フィットネスモードを活用すれば、「こういった部位が筋肉が付きやすい」といったアドバイスを行う。それを改善するための食材、サプリメント、スキンケア商品などを紹介し、Pitagorasを導入した店舗が取り扱う商材やサービスをレコメンドするのがビジネスの流れ。複数の種類の中から個人にあったタイプの商品を選ぶセミパーソナライズ型のサプリを、ホワイトレーベルでPitagoras導入店舗にセットで提供する試みも準備中だ。
装着部はカセット式で、用途に応じてさまざまな分析を行う。毛髪にも対応でき、ヘアサロンが導入すればヘアケア商品の販売促進にもつながる。大阪大学とは細胞の老化傾向を可視化する研究を共同で進めている。
都心部でこそイノベーションが起きる
辻本CEOは、起業家とメンバーの思いを発信し大企業などを巻き込んでスタートアップが成長するには、立地とコンセプトが重要な役割を果たすと強調する。特に健康寿命の延伸につながるウェルネス領域の場合、食品や日用品、機器メーカーとの連携が不可欠で、文化や生活がある都心部でしか先進的なイノベーションは生まれないというのが持論だ。Nakanoshima Qrossはそういった条件を満たす環境にあり、拠点とした。施設の機能も決め手となった。シェアラボの共有機器は充実しており、街中にあるのに外部への拡散防止措置を整えた「P2レベル」までの治験に対応できるようにしているからだ。また、夜遅くまで営業する飲食店が近所に充実している点も、従業員のモチベーションを支えている。
ウェルネスを高めるという目標を達成するために不可欠なヘルスケア産業の創出に向けて、産業界と医学界の連携が進んでいる点もNakanoshima Qrossの魅力である。再生医療の拠点としても知られているが、再生医療が普及すると生活習慣病対策が進み、人間の治癒力も向上するなど、ウェルネスにとって不可欠な予防医療が高度化することになる。このためPITTANも、入居するクリニックと連携したり食品や薬品メーカーの研究所と連携したりして、イノベーションの創発に挑んでいる。
ものづくりとヘルスケア、ウェルビーイングの掛け合わせでビジネスを創出する
辻本CEOは半導体製造装置メーカーなどに勤めていたこともあって、ものづくりに対するこだわりが強い。特にピタゴラスのコアテクノロジーとなる流体制御技術は世界の中でもトップクラスにあり、ヘルスケア産業も、少子高齢化という課題の最先端を走っていることが世界でも真っ先にソリューションを創出できるチャンスと考える。このため、ものづくりとヘルスケア、ウェルビーイングの掛け合わせによる新たなビジネスを作り出し、PITTAN自身も飛躍的な成長を目指す。「人間のホスピタリティーやウエットな距離感を含めて、人間にかかわる世界では東京よりも関西人の方がうまく渡り合える。そんな関西にあり、エコシステムを支えるプレーヤーが集積するNakanoshima Qrossを選ぶのは必然的な流れだ」と語る。
PITTANがこれから見据えるのはシンガポール、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシアといった東南アジア市場。10月には香港現地法人も開設する。関西国際空港に直結する新線の開業によって、マーケットはぐっと近づくとみる。Nakanoshima Qrossはヘルスケア領域に強い海外VCなどを招いたイベントなども積極的に開催しているため、ネットワークづくりを進め、新たな成長戦略に挑む。