Join us at GSE2025

キーパーソンインタビュー

Interview

関西の大学発スタートアップがディープテック産業を支える

さくらインターネットの田中邦裕社長は京都の舞鶴工業高等専門学校4年生だった1996年に創業し、99年に大阪で、さくらインターネットを設立した。関西発スタートアップの成長を支える環境は充実しており、特にこの10年で飛躍的な進化を遂げている。現在は大阪・関西万博によってモメンタム(勢い)が増しており、田中社長は「関西を通じて日本と世界のスタートアップシーンを変えるチャンス」と話す。

本記事の要点

  • 成長志向のスタートアップに、先輩起業家が情熱と知識の注入を行うことで、企業の成長を加速。ここ10年でスタートアップの拡大・再生産が一気に進む。
  • 関西にはスタートアップ経営を成功させたCFOやCMO経験者ら、ディープテック経営者の候補者が多く存在する。
  • 大阪・関西万博を契機に社会を良くするという思いで事業を取り組めば、スタートアップエコシステムにおける関西への注目度は一段と高まる。

田中 邦裕(たなか・くにひろ)

デジタルインフラサービスを提供する、さくらインターネットの代表取締役社長。ソフトウェア協会会長や日本データセンター協会の理事長などを兼任しているほか、新団体の設立を主導して国内生成AI市場の活性化にも力を入れる。1978年生まれ。大阪府出身。

――大阪で起業するメリットはどういったところでしょうか

「育てられた人が育てる側にシフトするという人材の循環が形成されている点です」

一定の経済規模があり、地域が一体となって応援してくれる点です。東京のように多くのコミュニティがあるわけではなく数は限られていますが、そうした環境だけに上を目指した人の成功確率は上がります。また、スタートアップを立ち上げ、上場に至った企業が何十社も存在します。起業家のエコシステムを構築するには、育てられた人が育てる側にシフトする必要がある。東京以外の地域ではあまり活発ではありませんが、大阪ではこうしたサイクルが確立されています。

――このようなエコシステムは、どういった形で支えられていますか

「上場を果たした企業の著名経営者によるメンタリングの場が提供されています」

「EO Osaka」といった起業家が集まる団体では、上場を果たした企業の著名経営者が、成長を期待されるスタートアップのメンタリングを行っています。また、「Booming!」というアクセラプログラムでは、株式の新規上場を目指す成長志向のスタートアップに対し、先輩起業家が情熱と知識の注入を行うことで、企業の成長を加速させています。ここ10年でスタートアップの拡大・再生産が一気に進んだ感じです。また、阪急阪神ホールディングスや三井住友銀行などの大企業も、インキュベーションセンターを相次いで立ち上げています。

――関西は東京と比べ大企業とスタートアップの距離が近いと言われています

「大企業の担当者と直接会える機会が多く、マッチングの精度も高いです」

東京に比べ大企業の数が少ないのは、本来であればデメリットになるはずです。また、旗振り役でもある行政やVCなどの数もそんなに多くなく、イベントに足を運んだら見たことがある人ばかりといったケースも少なくない。しかし、参加するたびにまったく知らない人の輪の中に参加するという環境よりも、緊密なコミュニティを形成しやすいという点ではメリットが大きいのではないでしょうか。実際、大企業の関係者と直接会える機会が多く、マッチングの精度も高いです。

――大学発スタートアップの数が増えており、2024年は過去最高となりました

「関西は大学の数が多く、ディープテック産業を支えるエリアとして注目されるでしょう」

スタートアップは新たなパラダイムへの移行が進んでいます。インターネットやITを活用して次の産業をいかに作っていけるかが課題になっており、ディープテック(先端技術)に注目が集まっているからです。ディープテックに携わる企業の多くは、大学発スタートアップです。その意味で京都大学や大阪大学をはじめ多くの有力大学を抱える関西は、次の産業であるディープテックを支えるエリアとなる可能性が高い。大学と企業をはじめとした産学官金の連携が着実に進んでいるからです。

こうした土壌のベースとなっているのが、京都と大阪、奈良の丘陵をまたぐ形で国家プロジェクトとして整備されている関西文化学術研究都市です。通称「けいはんな学研都市」として知られており、京大や同志社など7つの大学が集まっています。また、量子科学や地球環境、電気・情報通信のほか、AI、バイオ、ロボティクスなどに関する国の研究機関や、島津製作所、オムロン、京セラ、ニデックなどの企業の研究機関をはじめ150以上の施設が立地。研究者の数は1万人を超え、エコシステムができあがっています。

――関西でディープテックのエコシステムを加速するには何が必要ですか

「スタートアップを成長させたCFO経験者らを経営陣に投入することです」

優秀な経営陣を投入することです。幸いにも関西には、スタートアップ経営を成功させた財務最高責任者(CFO)や最高マーケティング責任者(CMO)経験者ら、多くの候補者が存在する。こうした人材を登用することが重要です。お金が集まってくる環境の整備も不可欠です。ベンチャーキャピタル(VC)の間では関西を重視する動きが活発で、スタートアップの祭典であるIVSも京都で開催されるなど、関西発スタートアップへの注目度は高まっている。ディープテックスタートアップのエコシステムには追い風が吹いていると言えるでしょう。

――大阪・関西万博は盛り上がっており、関西のスタートアップにも追い風となりそうです

「世界を見据え、社会を良くする企業へと成長してほしいですね」

確かに万博によってモメンタムが増しています。関西は観光資源が豊富。万博との相乗効果によって景況感が向上すれば関西のスタートアップの存在感も大きくなるので、関西を通じて日本と世界のスタートアップシーンを変えていく絶好の機会と言えるでしょう。このため「Global Startup EXPO 2025」を、世界が一つだということを再認識できる万博の会場で行う意義は大きい。というのは、起業家の根底には社会を良くしたいという考えがあるからです。各々が課しているアジェンダを一番上まで昇華させると世界の幸せにつながります。関西での活動をきっかけに、社会を良くするグローバルなスタートアップへと成長させる。起業家の皆さんがそういった思いで事業に取り組めば、スタートアップエコシステムにおける関西への注目度は一段と高まることでしょう。