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キーパーソンインタビュー

Interview

新規事業を産み出すにはオープンイノベーションが不可欠

関西経済連合会(関経連)は、事業会社とスタートアップによるネットワークの構築を重点課題として掲げている。オープンイノベーションを通じ新規事業を創出する動きが加速すれば、新たな経済効果を産み出し、関西だけでなく日本の成長戦略に大きく貢献するからだ。関経連のスタートアップ・エコシステム委員会の委員長を務める澤田拓子副会長は、「Global Startup EXPO 2025」の開催を契機に「関西の事業会社やスタートアップと海外勢との間でコラボレーションが進むことを期待している」と強調する。

本記事の要点

  • 関経連では、ピッチイベントなどのほかに関西の地域特性を活かした成長モデルづくりに力を入れている。
  • 社会課題の解決につながる新規事業を発掘するには、大企業とディープテック系スタートアップとの連携による社会実装が重要となる。
  • 大阪・関西万博とGlobal Startup EXPO 2025がきっかけとなって、海外の企業・VCと関西のスタートアップ、大企業とのコラボレーションが促進されることに期待する。

澤田 拓子(さわだ・たくこ)

関西経済連合会副会長。塩野義製薬副会長。バイオコミュニティ関西の委員長なども務める。京都大学農学部卒。兵庫県出身

――関経連は、どういった形でスタートアップの支援に携わっていますか

「事業会社とのマッチングや、地域特性にあわせたイノベーション創出を支援する取り組みを展開しています」

長く続けている取り組みとしては、スタートアップと事業会社とのマッチング事業があります。全国各地とのつながりや、関西企業に新たなスタートアップを紹介する観点から、昨年の北陸3県のスタートアップを招いたイベントに続き、本年9月には、福島イノベーション・コースト構想発のスタートアップを招いたピッチイベントを開催します。
関西は地方創生の旗頭として、元気にならないといけません。ただ、地域の特性を活かし、各地域で独自の成長モデルを作ることが重要です。それに向けた当会の事業が「あっちこっち関西・イノベーションプロジェクト」です。地域資源を生かしながら新しいチャレンジを行う関西各地の取り組みに、関経連が加わってイノベーションの創出につなげることを目的としています。京都府舞鶴市と兵庫県丹波地域との間で連携協定を締結し、様々な取り組みを行っています。
また、関経連は、大阪駅北側の再開発エリア「グラングリーン大阪」のイノベーション施設「JAM BASE(ジャムベース)」に、国の研究開発機関である産業技術総合研究所(産総研)と共同で拠点を設け、産総研と連携した活動にも注力しています。

――関西のスタートアップエコシステムの特徴について教えてください

「官民連携による交流施設や研究開発拠点が充実しており、エコシステムの成長を支えています」

官民連携による交流施設に加え、再生医療の拠点である「Nakanoshima Qross」や京都リサーチパークなどの研究開発拠点も充実しており、スタートアップエコシステムを支える土壌は肥沃です。経済産業省による2024年度の大学発スタートアップ調査では関西圏の大学の伸びが目立ちました。躍進の背景には、アカデミア側が主体となって関西の産官学金融など70以上の機関で設立した起業家支援組織「関西スタートアップアカデミア・コアリション」(KSAC)の存在もあります。東京は広すぎるしステークホルダーも多すぎる。これに対し、さまざまな関係者が固まって同じ方向に進む傾向が強いのが、関西の特徴です。

――スタートアップエコシステムの強化には何が必要ですか

「大企業側が新しい事業を産み出すために、オープンイノベーションを推進することです」

国のスタートアップ施策はIPOの数を増やすことを指標に掲げていましたが、昨今は企業価値をいかに高めるかという観点が重要になってきています。ただ、日本の場合、VCや事業会社からの資金流入量は圧倒的に少なく、自前の技術だけでできることは限られています。一方、大企業側も単独で新しい事業を生み出すことは難しくなっている。外部の技術を広く取り入れてそれぞれを組み合わせなければ、新規事業は誕生しません。将来に向かって揺るぎないエコシステムの基盤づくりを進めていくためにも、オープンイノベーションを一段と推進することが重要です。
オープンイノベーションには、「どういった技術を必要としているのか」という情報の公開が前提条件となります。このため大企業側は躊躇してしまいがちですが、製薬業界は早い段階からそういった垣根を取り払い、大学などから技術やシーズを積極的に入手しています。このような取り組みをあらゆる分野で進めていくことが、スタートアップだけではなく大手をはじめとした事業会社の成長にとって不可欠な戦略です。関経連としてもその部分を支援したいです。

――関西には有力なディープテック企業が数多く存在しています

「多様なバイオ技術で作った製品などをいかに社会実装していけるかが、今後の課題となります」

水素エネルギーの中核プレーヤーは関西ですし、核融合や量子などの領域でも注目されています。バイオ関連ではバイオコミュニティ関西(BiocK=バイオック)が主導し、多様なバイオ技術を使って、建築資材や樹脂材料などさまざまな製品を生み出す「バイオものづくり」に力を入れています。
大企業は将来の社会課題の解決につながる新規事業の発掘を進めており、今後はディープテック系のスタートアップや大学の研究室と連携して、社会実装をいかに進めていけるかが課題となります。ただ、うまくいっている事例はまだまだ少ない。大企業の目標は明確ですが、それを達成するためには、どういったパーツを補っていけばいいのかについて、十分に把握できていません。こうした弱みとなる部分を見つけて補強していけば、マッチングは進むと思っています。

――大阪・関西万博と「Global Startup EXPO 2025」にはどのような期待感を抱いていますか

「海外勢が関西のスタートアップエコシステムに加わり、システムの基盤が強化されることです」

これはスタートアップだけではなくアカデミアの現象でもありますが、領域によっては知的財産の公開や学会発表を行うだけで、海外からどんどんアプローチが来るというのが現在の潮流です。その意味で大阪・関西万博とGlobal Startup EXPO 2025は、世界に対して関西の実力を示す絶好のチャンスです。海外の企業・VCと関西のスタートアップ、大企業とのコラボレーションが促進されることを期待しています。また、スタートアップの育成には目利きの存在が不可欠です。現在は大学発VCや事業会社が目利き役を担っていますが、海外のVCが加わるとスタートアップエコシステムの厚みが増します。Global Startup EXPO は今後も継続して開催し、大企業、中小企業、スタートアップ問わず仲間として連携しながら、同じゴールに向かって行けるような環境を根付かせたいですね。