キーパーソンインタビュー
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世界から関西への投資が加速しエコシステムが持続的に発展
関西は大学や研究機関が生み出す最先端の技術が充実し、地域全体で支えるエコシステムが構築されている。ディープテックとイノベーションのハブとしても注目を集め、「Global Startup EXPO 2025」を契機に人と地域が共に未来を創る力に磨きがかかり、グローバル市場で輝くスタートアップ企業を次々と輩出することが期待される。日本での拠点を大阪に置くオーストラリアのアクセラレーターであるMedTech Actuator(メドテックアクチュエーター)合同会社のBuzz Palmer(バズ・パーマー)CEOは「これからは関西への投資が加速し、スタートアップエコシステムの持続的な発展が見込める」と強調する。
本記事の要点
- 大阪はJETROや大阪商工会議所など地域の支援団体との連携が強固で、地域全体でスタートアップの成長を後押しする文化が成熟している。
- 精密医療、幹細胞研究などの分野で世界トップクラスの研究成果を産み出し、関西地域全体のイノベーションをけん引している。
- グローバル市場で成功したスタートアップの事例を増やしモデルケースとして活用すれば、海外市場での競争力向上につながる。
Buzz Palmer(バズ・パーマー)
The MedTech Actuator CEO。医学博士。整形外科および再生医療の経歴があり、EU、インド、アラビア湾岸、アジア太平洋地域での事業経験をもつ。
これまでに500社超のスタートアップのコンサルティングを実施。

――MedTech Actuatorは日本のディープテックスタートアップに対し、どういったサービスを提供していますか
「日本の高度な医療技術を世界に届けるため、グローバル展開を支援する包括的なプログラムを提供しています」
医療技術の商業化支援を目的としたサービスです。日本の技術については「ゴールドクラス」と高く評価しており、それを世界に届けるための橋渡し役を担っています。具体的にはスタートアップが商業化プロセスを学び、実行可能な戦略を推進するためのアクセラレータープログラムを展開しています。また、世界で活躍するメンターや専門家、企業との連携を促進するグローバルネットワークの構築や、地域の技術・資源を活用した持続可能なイノベーションを生み出すローカルエコシステムの整備にも力を入れています。
――日本へ進出するに当たり、大阪を拠点として選択した理由について教えてください
「地域全体が一体となってイノベーションを推進する環境が整っているところです」
地域特性とエコシステムの充実度にあります。大阪は東京のような巨大都市とは異なって規模感が適切で、京都や神戸といった周辺都市へのアクセスも良く、関西全体での相乗効果が期待できる理想的な環境だと考えています。また、JETROや大阪商工会議所など、地域の支援団体との連携が強固で、地域全体でスタートアップの成長を後押しする文化が成熟しています。グローバル展開を目指すスタートアップにとって大阪は、最適な拠点と言えるのではないでしょうか。
――関西のエコシステムの特徴は
「精密医療、幹細胞研究など大学発の技術が地域全体のイノベーションを牽引して、スタートアップの成長を促している点です」
関西には京都大学、大阪大学、神戸大学など、医療分野の最前線で活躍する大学が集積しており、精密医療、幹細胞研究、腫瘍学などの分野で世界トップクラスの研究成果を生み出しています。企業との緊密な連携を通じた技術の商業化にも力を入れており、再生医療や医療画像診断の分野では、関西地域のスタートアップが世界的に注目される技術を開発しています。また、医療機器や製薬領域の大企業による生産技術や流通体制は、研究成果を実用化するための基盤となっています。大学発の技術が地域全体のイノベーションをけん引してスタートアップの成長を促し、大企業や地方自治体、政府による強力な支援が後押しとなる形でグローバル市場での競争力を高めていく。関西にはそんなエコシステムが息づいています。
――海外のエコシステムに比べ物足りないところは何でしょう
「ヘルスケアやディープテック分野の投資環境が、まだまだ発展途上の段階にある点です」
米国のボストンや英国のロンドンなど海外のエコシステムに比べると、関西の大学や研究機関は、世界トップクラスの研究を行っている点が特徴的です。技術力と研究の質の高さは関西地域の魅力と言えるでしょう。ただ、日本の投資環境は、ヘルスケアやディープテック分野でまだまだ発展途上の段階にあり、海外と比較して投資額が少ない。日本ではシリアルアントレプレナー(連続起業家)が少なく、起業家として再び成長するという事例も乏しい。日本のスタートアップは控えめな傾向があり、海外と比べてマーケティングや自己アピールが弱いといった文化的背景もあります。これらの課題を克服するためには、グローバルな視点を取り入れることが不可欠ではないかと感じています。
――グローバル展開を後押しするためには何が必要でしょうか
「国際的な資金調達の支援策や文化・言語面でのサポートです」
MedTech Actuatorの「グローバル・ナビゲーター」プログラムでは、スタートアップが新しい市場で顧客や投資家にアクセスするための支援を提供していますが、このようなプログラムは最大限に活用すべきだと思います。また、国際的な資金調達の支援策も大切です。海外の政府プログラムを通じ、本社を日本に置きながら子会社を海外に設立する施策などは活用できます。海外市場での活動をスムーズに進めるため、文化・言語面でのサポートも大切です。先ほど触れましたが、言語やビジネス習慣の違いを深く理解することはグローバル展開を図るうえで、避けて通れない課題であるからです。もう一つ挙げたいのは成功事例の創出です。グローバル市場で成功したスタートアップの事例を増やし、それをスタートアップのモデルケースとして活用することで関西スタートアップ全体を盛り上げることができれば、海外市場での競争力向上につながると考えています。
――大阪・関西万博やGlobal Startup EXPO 2025(GSE)は、関西のスタートアップエコシステムにどのような影響を与えますか
「世界中の投資家や企業の動きを促しそうです」
大阪・関西万博は、関西地域の技術力やエコシステムを世界に発信する絶好のプラットフォームとなり、国際的な注目を集める機会になっています。世界中の投資家や企業が関西を訪れ、スタートアップとの連携や投資の可能性を模索する機会が広がると考えられ、投資家や企業の誘致が加速するのではないでしょうか。また、東京一極集中のイメージを払拭し、関西地域が持つ潜在的な能力を国内外に示す絶好のチャンスとなるのではと期待しています。万博終了後も、関西地域のスタートアップエコシステムが持続的に発展することを楽しみにしています。